なぜ今「ダイバーシティ」なのか?
まずは、なぜ今「ダイバーシティ」なのか?をざっと確認しましょう。
日本は今この状況が加速中で、待ったなし!の状態です。
- 少子高齢化(働き手が足りない!)
- ビジネスのグローバル化(グローバル人材が足りない!)
- 産業構造の変化(ITなど成長産業での高度人材が足りない!)
それに加えて、2020年からのコロナの影響もあり、日本人の働き方に対する価値観や選択肢も大きく変化してきました。
リモートワークがすっかり定着しましたね。
リモートをきっかけに引っ越しをする社員も出てきましたよ。
つまり、「これまでの主要人材(日本語を第一言語とする日本人男性)による既存のやり方」からの変化が求められている、ということですね。
もっと詳しく知りたい方は、こちらをどうぞにゃ!
「ダイバーシティ1.0」から「ダイバーシティ2.0」へ
そこで経済産業省は、2012年、方針の一つに「ダイバーシティマネジメント」を掲げ、多様な人材を活かして価値創造に繋げる経営を推進してきました。
「なでしこ銘柄」「ダイバーシティ経営企業100選」といった、ダイバーシティ推進企業を紹介する取り組みも始まりました。
でもこの頃はまだまだ形式的で、現実的に機能しているとは言えない状況だったんですよね。
そうですね。経産省の『MET Journal』では、この第一段階を「ダイバーシティ1.0」と位置付けて、こう評しています。
ダイバーシティ1.0で、ありがちなケースはこうだ。
まず社会や政府から女性活用を求められていることに対して、とりあえず現場で形だけ整える。成果は実感できないが、そのまま「特別扱い」として継続はする。
それだけにダイバーシティの取り組みとしてはあくまで一部の施策にとどまり、全社的な動きにまでは至らない。
経済産業省『MET Journal』- ダイバーシティ1.0の限界
変化の必要性を実感できていなければ、こうなってしまいますね。
企業にとっては、同質な組織や慣れたやり方の方が楽ですし・・・
そうなんです。ですが社会の変化はのんびりとは待ってくれません!
そこで、企業がより広い視野で取り組み、本質的な成果を出せるようにと、「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」を提示したのです。
そのガイドラインが発表された2018年以降のフェーズが、「ダイバーシティ2.0」となるんですね。
ダイバーシティ2.0とは
多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指し、全社的かつ継続的に進めて行く経営上の取組
経済産業政策局 経済社会政策室『ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ』
「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」とは
「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」では、「実践のための7つのアクション」として以下の点を挙げています。
出典:経済産業政策局 経済社会政策室『ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ』
う~~ん、なんとなーく分かるんだけど、まだピンとこないかも・・・
そうですね~、では①~⑦を順に見ていきましょうか。
①経営戦略への組み込み
①経営戦略への組み込み
経営トップが、ダイバーシティが経営戦略に不可欠であること (ダイバーシティ・ポリシー) を明確にし、 KPI・ロードマップを策定するとともに、自らの責任で取組をリードする。
まずはトップが、「本気でやります!」「ここを目指して、こうやって進めます!」と宣言するんですね。
そうですね。ダイバーシティ経営によって「どのような企業価値向上を目指すのか」を、状態目標や数値目標で示すところからスタートですね。
「ダイバーシティ1.0」のところであったように、今回も、「上が言っているから」の形式的なものになってしまわないかしら?
良い視点ですね!その通り、人は”自分ごと”にならないと動けません。
「それをすることで、社会・企業・社員・その家族にどんな良いことがもたらされるのか」を繰り返し伝えるなど、根気強い語りかけが必要です。
②推進体制の構築
②推進体制の構築
ダイバーシティの取組を全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に責任を持つ。
トップ自身が、ダイバーシティ経営の「プロジェクトリーダー」になる感じかな?
そうですね、それを現実の体制に落とし込み、役割や担当範囲を決めるということですね。
ここでも、形式的にならないような工夫が必要なのかしら?
はい、この段階では、まずは幹部に”本気”になってもらうことから。
①で決めた目標を事業部に割り振るなど、責任を明確にすることが必要でしょうね。
③ガバナンスの改革
③ガバナンスの改革
構成員のジェンダーや国際性の面を含む多様性の確保により取締役会の監督機能を高め、 取締役会がダイバーシティ経営の取組を適切に監督する。
なるほど、取締役会自体に多様性がなかったら、ダイバーシティ経営の監督なんてできないですもんね。
全くですね。様々な業界、専門家、女性、外国人など、社内外の多様な視点が入ることが望ましいですね。
でも、取締役会で実際に話されていることなんて分からないし、ダイバーシティ推進に効果があるのかしら・・・
その通り、「多様な状態」があるだけでは不足です。
取締役への評価にダイバーシティに関する項目を入れる、取り組みの計画や結果を社内外に公表するなど、仕組化が必要ですね。
④全社的な環境・ルールの整備
④全社的な環境・ルールの整備
属性に関わらず活躍できる人事制度の見直し、働き方改革を実行する。
次は、全社環境を整える段階。ポイントはこの2点です。
「多様な人材が活躍できるよう、従来の人事制度を見直す」
「生産性・創造性の向上のために、 従来の働き方を見直す」
人事制度でいうと、「年功序列を見直す」「成果に基づくいた評価や報酬体系にする」などでしょうか?
そうですね、「各職務や評価基準を明確にする」「組織編成を見直して人材の適材配置を図る」なども考えられますね。
「働き方」だったら、リモートワーク、フレックス制、裁量労働制、などかしら。
育児や介護のための短時間勤務や、休職・復職の制度などもありますね!
そうですね、重要なのは「生産性・創造性の向上のために」という点です。
業務ごとの”成果”を定義したうえで、適した制度を選択してくださいね。
確かに、仕事によって成果は異なるから、それを高めるような制度でないと意味が無いですね!
⑤管理職の行動・意識改革
⑤管理職の行動・意識改革
従業員の多様性を活かせるマネージャーを育成する。
ここでのポイントは、この2点です。
「管理職に対するトレーニング」(ダイバーシティへの理解、マネジメントスキル)
「管理職が多様性を促進するような仕組み」
私は、異文化理解やコミュニケーションスキルのトレーニングを受けたことがあります。
1on1面談のためのスキルトレーニングや、「無意識の偏見」に気づけるようなコーチングなどもありますね。
「管理職が多様性を促進するような仕組み」って・・
管理職者の評価指標にダイバーシティの要素を入れる・・とかでしょうか?
女性管理職の育成を目標にするとか?
はい、そうですね。あとは例えば、現場での経験を通じたダイバーシティの知見や気づきについて、管理職者同士で意見交換する場を設ける、なども考えられますね。
幹部の次は、管理職者に”自分ごと”にしてもらう段階ということですね!
⑥従業員の行動・意識改革
⑥従業員の行動・意識改革
多様なキャリアパスを構築し、従業員一人ひとりが自律的に行動できるよう、キャリアオーナーシップを育成する 。
いよいよ従業員を巻き込む段階ですね。
ポイントは、「多様なキャリアパスの構築」と「キャリアオーナーシップの育成」です。
「多様なキャリアパス」といえば、出産や介護などで休職したり、スムーズに復帰できるようなサポートが思いつくわ。
最近は男性の育休も増えてきましたね。
そうそう、シニア人材の復職も注目されています!
人生の様々なステージでキャリアを継続できるような仕組みができると、人材の流出が防げますし、優秀な人材へのアピールにもなりますね。
「キャリアオーナーシップ」というのは、自分のキャリアに責任を持つ、自分でキャリアを創っていく、という考え方ですよね。
そうですね!多様な人材が活躍するためには、個々人がキャリアについて能動的に考え、成長することが必要です。
ロールモデルとなる社員を紹介したり、メンタリングでキャリアプランの相談にのったり、ということかしら。
採用時点でそういった姿勢が求められることを伝えたり、入社後も定期的に重要性を発信することも必要だろうね。
⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話
⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話
一貫した人材戦略を策定・実行し、その内容・成果を効果的に労働市場に発信する。
投資家に対して企業価値向上に繋がるダイバーシティの方針・ 取組を適切な媒体を通じ積極的に発信し、 対話を行う 。
ラストは、外部コミュニケーションです。
「一貫した人材戦略の策定」と「労働市場への効果的な発信と対話」がポイントとなります。
「一貫した人材戦略の策定」は、経営に必要な人材を見極める、ぶれない、ということかしら?
例えば海外市場への展開を考えているなら、それに対応できる人材が必要ですよね。
そのように、中長期的な視野で必要な人材を整理し、採用から育成まで一貫した人材戦略を策定する、ということです。
でも、こんなに不確定要素が多くて変化が速い世の中で、そんなに一貫性を保てるものかな・・・
いい疑問ですね!
①から⑦の流れは有機的なものであり、常に巡っています。
新たに得た知見や情報を全体に還元し、必要であれば調整や再設計をする、と考えてください。
「一度決めたことを守る」ことが目的になってしまうと、本質から逸れてしまいますものね。
「労働市場への効果的な発信と対話」は、何だろう?
人材獲得のためのアピールということかな?
そうですね、ダイバーシティに関する取り組みを発信したり、多様な人材への訴求方法を工夫することで、自社の人材戦略に合った人材獲得が促進されます。
そういえば、私のチームで外国人エンジニアを採用する時、新しい媒体を使いました!
外国人社員が複数在籍していることもアピールしましたよ。
弊社でも、海外の大学卒業者を獲得するために、9月にも新卒採用をしました。
リファラル採用にも力を入れていて、「カルチャーに賛同している人が多い」と好評です。
お二人とも素晴らしいですね。
一貫した人事戦略に基づいて訴求の対象、時期、方法などを考えると、効果的な採用ができますね。
日本のダイバーシティ経営の課題
最後に、ダイバーシティ経営における課題を見ていきましょう。
「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」では、ダイバーシティ推進のためには、”経営者の「粘り強さ」がカギ”であると述べています。
多様性は短期的なコンフリクトに直面しうるため、長期的な視点が必要。
そのために重要なのは、
1)短期的な課題を乗り越える試行錯誤のプロセス
2)中長期で目指す企業価値のゴール共有
経済産業政策局 経済社会政策室『ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ』
納得です。似たような人ばかりの組織の方が、コミュニケーションもマネジメントも楽ですもの。短期的に考えたら、楽な方を選択してしまいそう。
そうなんだよね、正直「多様性」って対立も生むし、新しいことをするとコストもかさむ。
まったく、その通りです。
だからこそ、トップが粘り強く試行錯誤したり、目指すゴールを発信し続ける姿勢がカギなのですね。
世界と日本社会の多様化は必然です。その中で、多様性を戦略に取り入れて変化対応していくか、旧態依然に残るか、なのですね。
自然科学者ダーウィンの言葉が、この状況をぴったりと言い表しています。
最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。
あなたの会社は、「強い者」「賢い者」「変化できる者」、どれですか??
こちらの記事も参考にしてほしいにゃ!