経済産業省が推進する『ダイバーシティ経営』のガイドライン、『ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン』。
それに沿って、中長期的に企業価値を生み出す取り組みを続ける企業を選定したものが、『100選プライム』です。
100選プライム企業の事例を見ると、各企業がダイバーシティ戦略をどのように位置づけ、競争力強化に繋げているのかがよく分かります。
「”ダイバーシティ経営”の具体的なイメージがわかない」
「自社でどのように取り入れていけばいいのか分からない」
「人材に関する課題を解決するヒントがほしい」
といった悩みをお持ちの方には、とても参考になる内容です。
そこで今回は、『令和元年度 100選プライム』受賞の「東急株式会社」さんについて、その取り組みと成果をご紹介します。
企業情報
まずは、東急株式会社さんの企業情報を見ていきましょう。
公式HP 東急株式会社
企業概要
会社設立年:1922 年
資本金:121,724百万円(2019年3月31日現在、単位未満切捨)
本社所在地:東京都渋谷区南平台町 5-6
事業概要:不動産賃貸業、不動産販売業、その他事業
営業収益:284,531百万円(2018年4月1日~2019年3月31日、単位未満切捨)
従業員数:1,408人(2020年1月1日現在)
1922 年の創業以来、鉄軌道事業、都市開発、生活サービスなど幅広い事業を展開されています。
2019 年には鉄軌道事業を分社化(東急電鉄株式会社)されていますが、経営目標の策定や人事・労務管理は二社一体 体制とのこと。
中期3か年経営計画(2018年度~2020年度)における重点施策のひとつとして「ワークスタイル・イノベーションの進化」を掲げ、ダイバーシティマネジメントを推進をされています。
参考資料:中期3か年経営計画(2018年度-2020年度)-ダイバーシティ関連取組状況ー
なぜダイバーシティ経営を推進したの?
東急株式会社さんは、経営課題と人材戦略をこのように設定されています。
経営課題
人口減少・高齢化社会に向かう中でも「選ばれる沿線」であり続けることが課題
人材戦略
多様な価値観に応える街づくりのためのイノベーションを実現する基盤として、多様性を活かす組織づくりを推進
令和元年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 ベストプラクティス集 - 東急株式会社
鉄道会社(+不動産事業)の従来のビジネスモデルでは、「沿線の都市開発(住宅地の開発や企業・大学・商業施設の誘致など)」「それに伴う鉄道利用客の増加」「沿線不動産価値やブランドの向上」が主な収益源でした。
しかし、日本の人口減、家族像の変化(高齢者や単身者の増加など)、働き方の変化(通勤時間にかける時間の減少、リモートワークの定着など)等にともない、その転換が迫られています。
「郊外の自宅から電車で片道1時間程度かけて通勤」「休みの日は近くのショッピングモールで家族で買い物」のような像にもとづく街づくりが機能しなくなっているのですね。
そこで東急株式会社さんは、「多様な価値観に応える街づくり」に必要なイノベーションの実現に向けて、「ダイバーシティマネジメント(多様性を活かす組織づくり)」を戦略として位置付けたのです。
なお、2021年度からの中期3か年経営計画では、基本方針を 『変革』~事業環境変化への対応による収益復元と進化 と定め、さらなる変化への対応を進められています。
ダイバーシティ経営をどのように進めたの?
それでは、実際にどのような段階を経て進められたのかを見ていきましょう。
1980年代~2010年頃:女性活躍推進中心の段階
- 1988 年に女性総合職、 2001 年に鉄道現業における女性社員の採用をそれぞれ開始
- 出産、育児を経て復職する女性社員が次第に増加
- 2010 年前後には、働き方に制約のある社員のため、出勤時間や休暇の自由度を高める制度を整備(「スライド勤務」「バリュータイム」「時間単位の有給休暇」など)
2010年以降~:全社の経営戦略として取り組む体制へ
- 2013 年、人事部門と経営戦略部門を横断した「ダイバーシティ推進ワーキンググループ」を設置
- 2014年、「ダイバーシティ・キャリア開発課」を設置
この 2つの組織を両輪としてダイバーシティ施策を推進。制度、風土、マインドの 3 つの観点から各種施策を展開。
2014年以降~:経営方針としての策定・発信へ
- 2014 年度以降、女性管理職数、新卒総合職採用女性比率、男性育休取得率を KPI として設定
- 2015~17 年の中期経営計画において「ダイバーシティマネジメント」を明記
- 2017 年、経営トップによる「東急株式会社(連結)ダイバーシティマネジメント宣言」を公表
- 組織風土やマインドへの変化を促すため、管理職の行動・意識改革のための取り組みを実施 ~ 管理職向けのマネジメントセミナー、管理職評価の見直し、女性管理職等向けのメンター制度など
社員、顧客、株主のそれぞれに対し、社員の個性を尊重することでイノベーションを実現し、持続的な企業価値向上を目指すことを明文化。
2018年以降~:社員の主体性構築へ
- 2018 年~2020 年の中期経営計画においてもダイバーシティマネジメントについて明記
- 2019年には、長期経営構想において、サステナブル経営の重要テーマとして「ひとづくり」を明記
- 社員が働き方を主体的に選択できる「スマートチョイス」を導入
- 従業員の行動・意識改革を目指した取り組みの導入 ~ 社員の主体的なキャリア構築支援、社内交流セミナー、社内副業としての他部門支援制度、タレントマネジメントシステムなど
女性の働き方支援→全社体制へ→さらなる変化への対応 という変遷がよく分かりますね。
ダイバーシティ経営の成果とは?
次に、取り組みの結果として、どのような成果を得られたのかを見ていきましょう。
KPIとして設定した項目
女性管理職数
14名(2013年度)⇒ 目標:2020 年度末で40名 ⇒ 2019 年10 月時点で前倒し達成
新卒総合職採用女性比率
27%(2014年度)⇒ 目標:2020 年度末で40~60% ⇒ 2019 年度実績42%で前倒し達成
男性育休取得率
2.1% (2014年度)⇒ 目標:100% ⇒ 2018 年度で73.1%まで増加
女性やシニアの活躍推進
女性社員の管理職増加
2019年10 月現在、課長級 34 名、部長級 6 名
女性社員の職域拡大
運転士、車掌、駅員といった鉄道現業職場での女性社員増加、女性の駅長や助役も誕生
60歳以降のシニア社員の職域拡大
鉄道現業におけるキャリア継続、現業の経験を活かした部門を越えたキャリア、営業や国際経験等の専門性をグループ会社間で生かす事例など
イノベーションの創出
法人向け会員制シェアオフィス事業「NewWork」
- キャリア採用社員と育児中の社員が中心となって開発
- 沿線内外において新しい働き方を可能とする環境を提供
- 社員もサテライトオフィスとして活用
少子高齢化や共働き家庭の増加に対応する新サービス
- サービス付シニア住宅施設やデイサービス
- 保育園やアフタースクール(民間学童保育)
「選ばれる沿線」の実現
日本全体の人口が減少に転ずる中、過去10年間(2009年度比)で、輸送人員は 11%、沿線人口は 5.4%の増加
まとめ
今回は、『令和元年度 100選プライム』受賞の「東急株式会社」さんについて、その取り組みと成果をご紹介しました。
ビジネスモデルの変化が求められる中、ダイバーシティを経営方針に取り入れられた事例として参考になりますね。
こちらの ベストプラクティス集(経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室)で取り組み詳細が確認できます。
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