労働力人口の減少、ビジネスのグローバル化、そして産業構造の変化 が進む中、多様な人材を活かす企業経営である「ダイバーシティマネジメント」の重要性が高まっています。
ダイバーシティの基本知識から確認したい人はこちらを参考にしてくださいね。
ですが、”多様な組織”には 様々な価値観や考え方が存在するため、同質な組織に比べて、運営がより複雑で不確実性が高くなります。
採用基準、雇用形態、評価制度など、全面的に見直す必要がありますね。
得られるメリットが大きい反面、うまく機能しないときのデメリットも多く存在するのが現実なのです。
ダイバーシティのメリット・デメリットについてはこちらをどうぞ!
そこで今回は、ダイバーシティ推進において「これはやらない方がいい!」というNG施策をご紹介します。
今回の記事は、『差別の心理学:ダイバーシティ施策を成功させる方法』(著:フランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフ)を参考にしているにゃ。
「すべきではない」ダイバーシティ推進施策とは?
調査の発端は、米国でのダイバーシティへの取り組みがうまくいっていないと分かったことです。
米国では、1980年代頃からダイバーシティへの意識が高まりを見せていました。そして1990年代頃からはダイバーシティ関連の訴訟が増加し、企業は”多額の和解金”というリスクを負うこととなります。(メリル・リンチが支払った総額は5億ドルに上るそうです。)
各企業、自社のダイバーシティ環境を改善するために様々な取り組みを行ってきましたが、フランクとアレクサンドラの調査によると、多くの策が旧態依然なアプローチの焼き直しであり、事態を改善するどころか悪化させている例が多いことが分かりました。
お金と時間をかけてやっても悪くなるなら、やらない方がまし!になってしまいそうにゃ・・
そうよね、だからこそ、自社に有効な策を見極めなくちゃ!
そして二人は、800社余りの米国企業から収集した30年にわたるデータを分析し、数百人の現場マネージャーや経営幹部にインタビューを行い、企業のダイバーシティを高めるために何が有効で何が無効なのかを導き出したのです。
その調査で分かった「すべきでないこと」とは、以下の4つです。
- ダイバーシティ研修
- 登用試験
- 業績評価
- 苦情申し立て制度
えーっ、そんなバカな!自社でやっていることも入っています!!
そうなんです、なんと「悪化」の原因は、多くの企業で導入されているものばかりだったのです。
始めたばかりの取り組みもあるし・・どうしたらいいんだ・・・
心配しないでください、ポイントは「運用方法」なんです。
同じ策でも、やり方によって良い結果にも悪い結果にもなりえます。
じゃあ、今からでもやり方を改善していけばいいんですね!
その通りです!では詳細を見ていきましょう。
1.ダイバーシティ研修
「ダイバーシティ推進のために何をしよう」と考えてまず思いつくのは「研修」でしょう。
はい、まさに私のチームも、ダイバーシティ研修を控えています。
これまでに行われた1,000件近くの研究結果から、以下のことが分かっています。
- 研修で「どう対処すべきか」の模範解答を簡単に得られるが、簡単に忘れる
- 良い効果が1日または2日以上続くことはほとんどない
- 研修によって偏見が助長されたり反発が起きたりすることもある
確かに・・過去の研修を振り返ると、心当たりがあります・・
マイナスの効果をもたらしてしまう原因も分析されています。
マイナスの効果をもたらす研修の例
● 否定的なメッセージや動機付けが多用される
例:「~をすると、こんなことが起きてしまいます」「こんなことにならないように気を付けましょう」など
● 参加対象となった人たちが、批判のメッセージだと受け取ってしまう
例:「あなたたちに問題があるから、矯正する必要がある」など
● 研修は義務的であり、従って当然だとする
例:「取り組まない者は”退職勧告もやむ無し”」と上層部が示す など
じゃあ、これらを避けるやり方を考えればいいんですね!
そういうことです!
プラスの効果をもたらす要素も分かってきました。
これらをうまく取り入れて、実りある研修にしたいですね。
プラスの効果をもたらす研修の例
● 前向きなメッセージを発信する
例:「こうすれば、こんなメリットがあります」「こういう理想の姿になるためには、どんなことができるでしょうか?」など
● 任意参加であったり、参加者が自然と協力者・擁護者になっていくような研修
例:まずは前向きな人たちから募って徐々に広げていく、参加した人に次の研修のメンターになってもらう など
● 通常の組織図外の交流が継続的にできる
例:部門を超えたユニットを組む、通常業務に関係ない人をメンターとする など
なるほど、研修プランを見直してみます!
2.登用試験
管理職への昇格や海外赴任者の選抜など、「登用試験」も多くの企業で実施されていることでしょう。
はい、弊社でも、マネージャーへの昇格試験があります。
ですが残念ながら、審査者の意識的または無意識的なバイアスにより、結果がゆがめられてしまう例が多々報告されています。
フランクとアレクサンドラの調査によると、米国企業の約10%がマネージャー職の登用に筆記試験を導入しており、導入後の5年間で、マネージャー職における白人女性とアジア系米国人女性の比率が顕著に減少していると分かりました。
どちらも教育水準が高く、通常ならば試験の成績が良い集団であることから、「受験スキルの差によってこの傾向を説明することができない」と述べています。
日本の例でいうと、大学の医学部の入学試験で、女性受験者の入試得点に減点処理が行われていたことを覚えています。。。
これからも、人間のバイアスをゼロにすることはできないでしょう。
ですから、その現実を認識し、防止策を取ることが肝要ということです。
今積極的に進められている「取締会の多様化によるガバナナンス強化」も該当しますね!
はい、CSR(企業の社会的責任)として、複数の目・多様な視点でチェックすること、経営の透明性を高めることが、今後ますます求められるでしょうね。
3 .業績評価
弊社では、数年前から業績評価を実施しています。
これも・・・まずいのでしょうか・・・
実施自体が良くないというわけではありません。
が、登用試験と同じく評価者のバイアスに影響を受けやすく、多様性を抑える原因になりうることが分かっています。
業績評価がダイバーシティの足を引っ張る例
- 女性やマイノリティは低く評価される傾向がある
- 差別問題で訴えられた時の反論材料(「自社には平等な業績評価があるから差別はありえない」など)を主目的にしている
- もめ事を避けるために、誰にでも高得点をつけるマネージャーが一定数いる など
女性やマイノリティが低く評価されるのはなぜにゃ?
そうですね・・では日本の例として、外国籍人材のケースを見てみましょう。
あるオフィスでのこと。日本人の上司が、外国人の部下に話しかけました。
Aさん、今日時間があったら、この仕事もやっておいてね。
はい、わかりました。
見たところそんなに忙しくなさそうだし、すぐにできそうね。
終業時刻が近づいているのに、Aさんから何の連絡もないわ・・
では今日は帰ります。
えっ?あの仕事、どうなっているの?
あぁ、やっていませんよ。
では、また明日!
???
次の日もその次の日も、Aさんは、頼まれた仕事に手を付ける様子は見られませんでした。
さて、皆さんは、Aさんのことをどう思いますか?
責任感が無いわよね!
できないならせめて、いつ頃できそうかとか、報告をするべきだよね。
ふむふむ、では、Aさんはどう思っているのか聞いてみましょうか。
えっ、責任感が無い?失礼だな!
「時間がある時に」と言われたから、次の企画の準備を優先しただけだよ。
自分の主業務で成果を出すことが最優先だからね。
報告をすべきだという意見もありますが、どうでしょう?
え、なぜ?報告をしろという指示はなかったよ?
はっきり指示があれば、もちろんするさ。
そうだったのね!
「きっとこう考えるはず」と思い込んでいたのだわ・・・
分かってよかった、次から指示を明確にするわね。
日本の組織は元来、「(主に外見的な)日本人」「日本語」「(空気を読むなどの)日本社会理解」を軸とする同質性が高いため、その中での ”暗黙の了解” をあらゆる人に求めてしまうことがあります。
業績評価にこのようなバイアスが反映されると、高い能力を持つはずの人が低評価を受けるなど、多様性のメリットを抑制してしまうことになります。
様々な視点で考えられるようにするためには、どうしたらいいのかしら?
「人生とは」「組織とは」「仕事とは」などの価値観は、その人が生まれ育った環境に大きく影響を受けています。
まずはいろんな考え方があると知ることが大切にゃ!
僕の出身国、ドイツの文化はこれか!
個人差はあるだろうけど、うん、だいたい納得できるよ。
4.苦情申し立て制度
「苦情申し立て制度」とは、何らかの差別や、多様性を阻害するようなことがあった場合、担当部署などに直接訴えることができる、という制度です。
この制度がうまくいかない理由として、以下の点が挙げられています。
「苦情申し立て制度」がうまくいかない理由の例
● このような制度を導入するだけで、「自社はオープンだ」と思い込む
● 苦情を言った従業員が冷遇されたり、報復を受けたりする
● 報復を恐れて声を上げる人がいなくなると、「自社には問題がない」と結論付けらるようになる
日本の例として、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が令和3年に発表した『職場のハラスメントに関する実態調査報告書』を見てみましょう。
【パワハラを受けた後の行動】上位5回答
- 何もしなかった 35.9%
- 社内の同僚に相談した 22.0%
- 社内の上司に相談した 18.1%
- 家族や社外の友人に相談した 17.9%
- 会社を退職した 13.4%
何もしなかった理由・・「何をしても解決にならないと思ったから」「職務上不利益が生じると思ったから」など
参考
- 社内の相談窓口に相談した 5.4%
- 人事部等の社内の担当部署(相談窓口を除く)に相談した 5.1%
日本においても、相談窓口や担当部署への申し立てはハードルが高く、「苦情申し立て制度」が有効な解決策として機能していないことが分かります。
確かに・・・
「人事部に相談するのは勇気がいる」と言われたことがあります・・。
多様な存在を受け入れる組織を作るためには、どうすればいいのかしら。
社内の人間に相談する人は多くいるから、そこで手を打てないだろうか?
良い着眼点ですね!
フランクとアレクサンドラの調査でも、「社員間の交流」がサポート機能を果たし、多様性を促進することができると述べています。
【多様性を助けるコミュニケーションの例】
● メンター制度
- 通常業務では利害関係が無いメンターにすると、しがらみなく相談ができる
- 1対1の対話を通じて、互いに多様な価値観を知る機会になる
- メンターにとっては、貴重な育成経験になる
● 部署を超えたプロジェクトチーム
- 社内でのロールモデルや相談相手ができる
- リーダーシップ育成の場にもなる
- 異なる部署が接点を持つことで、イノベーション創出の可能性が高まる
● クロストレーニング(様々な職務に挑戦する研修)
- 複数の職務を体験することで、会社全体の仕組みを知ることができる
- 価値創出や問題解決の視点が豊かになる
- 部署間の敬意が生まれ、一方的な主張や押し付けが減る
社内の人間関係が、多様性のセーフティネットになるのですね!
日本企業の実際の事例を見てみたいわ!
経済産業省が選定している「100選プライム」では、ダイバーシティ経営の優秀企業を表彰しています。具体的な事例が参照できますよ!
まとめ
今回は、ダイバーシティマネジメントのNG施策をご紹介しました。いかがでしたでしょうか。
コミュニケーション関連の施策については、ダイバーシティ&インクルージョンに加えて注目されている「Belonging」という概念が参考になります。
Belongingは、D&Iの潤滑油のような役割です。あわせてご覧ください!
こっちには、多様な視点に気づく動画があるにゃ!参考にしてほしいにゃ!