企業の経営戦略として、「ダイバーシティマネジメント」が取り上げられる機会が増えてきました。
しかしその取り組みは試行錯誤の段階で、数多くの疑問が生まれていることと思います。
ダイバーシティマネジメントには、どんなメリットがあるのかしら。
デメリットも知っておきたいよね。
ということで今回は、ダイバーシティマネジメントのメリット・デメリットをわかりやすくご紹介します!
ダイバーシティについて基本から確認したい人はこちらをどうぞにゃ!
ダイバーシティマネジメントのメリット
大手コンサルティングファームPwCが、世界のCEO1,322名に対して行った調査があります。
その中の、人材の多様化に関する項目を見てみましょう。
Q. 人材の多様化を図り、多様性を受け入れることによって恩恵があったと思う項目は?(TOP5を抜粋)
- 優秀な人材の惹きつけ 90%
- 業績の向上 85%
- ブランド力や評判の強化 83%
- イノベーションの活性化 78%
- 組織の内外でのコラボレーションの深化 78%
なるほど、これらがダイバーシティマネジメントのメリットになりうるんですね!
そういうことですね。
では、各項目を見ていきましょう!
優秀な人材の惹きつけ
世界のCEO1,322名のうち 90% が、多様性の受け入れにより「優秀な人材の惹きつけ」に恩恵があったと回答
少子高齢化が進む日本では、働き手がどんどん少なくなっていきます。
特に、企業の成長を左右するIT人材やグローバル人材の不足は年々高まっており、世界規模での争奪戦が繰り広げられています。
優秀な人材の獲得は、企業の重要命題ですからね。
ダイバーシティと人材の惹きつけ、どんな関係があるのかしら?
ではここで、優秀人材が多いと言われる「ミレニアル世代」に関する調査を見てみましょう。
彼らの「ダイバーシティ」への意識が分かりますよ。
ミレニアル世代とは?
・1980年~1995年の間に生まれた世代
・2021年現在 26~41歳で、労働市場の主流を占める存在
・物心がついた時からスマホ、SNSが当たり前のデジタルネイティブ
まさに、現在のビジネスの核となる世代ですね!
ミレニアル世代はダイバーシティについてどう考える?
以下は、ミレニアル世代を対象に実施した調査の結果です。
Q. 多様性、平等性、多様な人材に対する受容性に関する方針は、就職先を決めるうえでどの程度重要ですか?
⇒ 回答者のうち、女性の86%、男性の74%が「重要である」と回答
出典:PwC『ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材』
Q. もし選択できるならば、新しい組織に参画したり、何か違うことを始めたりする前に、どのくらいの期間現在の組織に勤務しますか?
⇒「5年以上長期で勤続する予定である」と答えた人の割合
「多様性のある組織」に勤務している者のうち、69%
「多様性のない組織」 に勤務している者のうち、27%
出典:デロイトトーマツ『2018年 デロイト ミレニアル年次調査』
ミレニアル世代にとって、就職先のダイバーシティは重要な意味を持つんですね!
長期勤務を考えるかどうかにも、影響があるんですね。
ミレニアル世代は、世界の情報に容易にアクセスできる環境で育ち、英語教育や海外経験も豊富です。多様化への理解・興味が強い世代と言えるでしょうね。
業績の向上
世界のCEO1,322名のうち 85% が、多様性の受け入れにより「業績の向上」に恩恵があったと回答
これは企業としては見逃せない結果ですね!
多様性で業績が上がるなんて・・・本当なのかな?
コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが2015年に発表した“Diversity Matters”というレポートに、こんな調査結果があります。
● 人種的な多様化が進んでいる企業(上位25%以内)は、業界の中央値よりも30%以上財務パフォーマンスが高い傾向がある
● 女性管理職の割合など、ジェンダーの多様性が進んでいる企業 (上位25%以内) は、業界の中央値よりも15%以上財務パフォーマンスが高い傾向にある
なるほど、関連性が示されているんですね。
日本のデータもあるんですか?
内閣府『令和元年度 年次経済財政報告』の「多様な人材の活躍は生産性等を向上させるか」というレポートを見てみましょう。
「性別や国籍の多様性が、企業の業績にプラスの影響を与えうる」と出ているのですね。
次は、多様性と生産性の関係についてのデータです。興味深い傾向が出ていますよ!
多様な人材が活躍するための取り組みがある企業では、生産性が高まっているけれど・・
「多様性」はあるけれど、活躍するための取り組みが無い会社では、生産性が低下しているのですね!
そうなんです、これがとても大事なことなんです。
「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を聞いたことがありますか?
はい、聞いたことはありますが・・・正直、よく分からないです。
うーん・・・僕も、分かっていないなぁ。
大丈夫、米国のダイバーシティ・コンサルタント Vernā Myersの言葉を聞けば、よくイメージできると思いますよ!
Diversity is being invited to the party. Inclusion is being asked to dance.
Vernā Myers
ダイバーシティはパーティに招待されること。インクルージョンは、そこでダンスに誘われること。
「ダイバーシティ」は「パーティーに招待されること」・・・つまり、「会社に入社すること」とか「部署やチームに配属されること」・・・かしら?
そして「インクルージョン」は「ダンスに誘われること」だから・・・社内や配属先で「存在を認められて業務に参加すること」・・・かな?
素晴らしい、その通りです!
先ほどの分析結果を確認すると、「”ダイバーシティ”だけあっても、”インクルージョン”の視点がなければ生産性は下がりますよ」ということですね。
それはそうよね。
考え方や価値観が違う人たちが集まっていたら、チームをまとめるのは大変になるもの。
ふ~む、多様な社員が活躍できるような体制があってこそ、ダイバーシティのメリットがもたらされるんだな。
ブランド力や評判の強化
世界のCEO1,322名のうち 83% が、多様性の受け入れにより「ブランド力や評判の強化」に恩恵があったと回答
「平等性が高い企業」「女性登用に積極的な企業」というイメージは、企業のブランド価値を高めるのね。
さっきのミレニアル世代の調査からも、「多様性ある組織」がブランドや評判に繋がることは想像できますね。
「ESG投資」(E:環境、S:社会、G:ガバナンス を適切に考慮する投資)の拡大もありますね。ダイバーシティは「S:社会」と「G:ガバナンス」における重要テーマです。
米国MSCI社が公表する「女性活躍指数」 や「ESG セレクト・リーダーズ指数」は、世界中の投資家が注目しているんですよね。
日本でも、「なでしこ銘柄」という銘柄があると聞きました。
はい、女性活躍推進に優れた企業への投資を促進しているものですね。
こちらを参考にしてくださいにゃ!
イノベーションの活性化
世界のCEO1,322名のうち 78% が、多様性の受け入れにより「イノベーションの活性化」に恩恵があったと回答
まずは、「イノベーション」の定義から確認しましょう!
語源は英語で「変革する」「刷新する」という意味の動詞innovateの名詞形innovation。
経済活動において既存のモデルから飛躍し、新規モデルへと移行することを意味します。
日本語ではよく「技術革新」の同義語として使われますが、本来は新しい技術を開発するだけでなく、従来のモノ、しくみ、組織などを改革して社会的に意義のある新たな価値を創造し、社会に大きな変化をもたらす活動全般を指すきわめて広義な概念です。
『日本の人事部』HRペディア「イノベーション」
”音楽を外に持ち出した”SONYのウォークマンとか、”買い物”の概念を変えたAmazonは、まさにイノベーションよね!
Uber や Airbnb について初めて聞いた時にはびっくりしたなぁ。
「えっ、そんなことがビジネスになるの?」って!
イノベーションを起こすためには、既成概念や常識を覆す必要があるわけだから・・
確かに、ダイバーシティと相性が良さそうね。
そうですね、それを表すような調査結果もありますよ。
ボストン コンサルティング グループ(BCG)がこのような発表をしています。
多様性とイノベーション
ランキング50位までの企業は、リーダー層における性別や民族の多様性が高い傾向にあります。たとえば、マイクロソフト、アリババ、シスコ、フィリップス、ノバルティスなどは高い水準でダイバーシティ&インクルージョンを実現しています。
データの解析から、イノベーションが多様性を高めるのではなく、多様性がイノベーションを促進することが分かっており、イノベーションをおこす準備態勢を整えるドライバーのひとつとして、取り組むべき領域といえます。
ボストン コンサルティング グループ(BCG)『イノベーション企業ランキングトップ50を発表~BCGイノベーション調査2021』
2021年のイノベーション企業ランキングには、日本企業では、9位にソニー、21位にトヨタ自動車、33位にファーストリテイリングがランクインしているにゃ!
組織の内外でのコラボレーションの深化
世界のCEO1,322名のうち 78% が、多様性の受け入れにより「組織の内外でのコラボレーションの深化」に恩恵があったと回答
「組織の内外でのコラボレーション」って、何を指すんだろう?
科学技術の急速な発展により、市場のグローバル化や産業構造の変化がすごい勢いで進んでいます。そのような状況下では、一つの部署や一つの企業だけですべてに対応することが難しくなっています。
PwC『第18回世界CEO意識調査』のレポートに掲載されているあるCEOの言葉が、その状況をよく表しています。
そんな企業を見たことがないが、仮に無限の資源があるなら一人でがんばり、時間をかけて製品を作ればよい。だが、仕事を急ぎたいなら市場を理解しているパートナーと組む方がいいし、より簡単だ。
Alan D. Wilson – Chairman, President and CEO, McCormic & Company, US
社内外問わず、適したパートナーと協働していくということですね!
社内であれば、関連会社や海外支社、新規事業、プロジェクトチーム。
社員の副業や独立によるコラボもあるかな。
社外では、取引先、顧客、競合他社、他業界企業、スタートアップ企業、教育機関、公的機関などが考えられますね。
パートナーシップ創造の場としては、日本最大のイノベーションコミュニティである「Venture Café Tokyo」、渋谷区が中心となりスタートアップ企業を支援する「SHIBUYA STARTUP SUPPORT」など、企業の枠を超えたコラボレーションの場が広がっています。
ダイバーシティマネジメントのデメリット
それではいよいよ、デメリットを見ていきましょう。
「業績の向上」の項目で見たように、以下の傾向が示唆されています。
多様性(ダイバーシティ)だけあっても、人材が活躍するための取り組み(インクルージョン)がなければ、生産性向上には結びつかない。むしろマイナスになりうる。
ただ色々な人を採用するだけ、かたちだけのダイバーシティでは、デメリットをもたらしてしまうんですよね。
その通りです!
それでは、マイナスの影響が出てしまう例を3つ、見ていきましょう。
1.人が定着しない
ケース1:「ダイバーシティ」看板型
「ダイバーシティ」をアピールポイントにして採用強化
→入社後、現実とのギャップで離職
→繰り返される採用面接と研修でかさむコスト、教育役の社員の負担も増すばかり
「掲げているだけ」の多様性は、それに期待を感じて入社する方々にとっては、失望の元になってしまうのですね・・・
自社の強みとしてダイバーシティを掲げるのであれば、「採用のため」のように”いいとこどり”するのではなく、入社後の育成、サポートまで一気通貫の人事戦略が必要です。
大橋運輸さんは、愛知県瀬戸市に本社を置く中小企業です。多くの地方中小企業が抱える”人材”に関する課題を、ダイバーシティ経営で緩和した例として参考になります。
2.対立、ストレス、ミスコミュニケーション
ケース2:「あとはよろしく」型
外国人や女性の積極採用を促進
→チームマネジメントは現場マネージャーに一任
→これまでの手法が通用せずマネージャーは疲労困憊、コミュニケーションがうまくいかずメンバー間の対立も発生
わぁ、これは耳が痛いです・・・
採用で手いっぱいの時は、マネージャーの負担を考えられていなかったかもしれません・・・
多様なチーム運営には、新しい手法に関する知見や根気強い対話、そして周囲の理解が必要です。ひとりのマネージャーの努力だけでは限界があるのです。
日本ユニシスさんは、トップが強くリードし、全社を巻き込みながら社員エンゲージメントを高めた例として参考になります。
3.生産性の低下
ケース3:「机上の空論」型
働き方改革で多様な働き方を導入、フレックス制や新しい休暇制度も開始
→でも現場は旧態依然、「誰かが休んだら誰かが残業してカバー」 が解決策
→制度運用のややこしさで現場は混乱、増える業務、減らぬ残業・・・
狙いと現実が乖離していたら、混乱を生むだけですね・・
生産性を高めるためには、各部署の”仕事”の定義と成果をはっきりさせることが必要です。そのうえで、成果に繋がる制度設計と、実際に現場で運用するためのサポート設計が必要となります。
カルビーさんは「投下した時間=成果ではない」と明言して改革を進め、低利益体質を改善した例として参考になります。
まとめ~ダイバーシティマネジメントを成功させるためには
今回は、ダイバーシティ経営のメリットとデメリットを見てきました。
それでは、ダイバーシティ経営を成功させるためには、どのように進めていけばよいのでしょうか?
「自社の経営戦略の中でダイバーシティ推進をどのように位置づけるのか」「どのような状態にもっていきたいのか」を明確にすることが、最初の一歩です。
「採用だけ」のように一部の部署が担当するのではなく、全社課題としてトップがリードしていくことも重要ですね。
全体設計から個々の施策への落とし込み、全体の巻き込み方などは、下のようなツールや導入事例が参考になりますね!
ダイバーシティ経営実践のための各種支援ツール 経済産業省 経済社会政策室
適材適所のススメ<ダイバーシティ経営読本> 経済産業省 経済社会政策室
また、ダイバーシティ経営を推進するメンバーが、関連情報や知識を更新していくことも重要です。
「これが正解」「これで完了」といったことは決してありませんので、常に新しい情報やデータをキャッチし、自社に当てはめて考えていくことが大切です。
例えば現在は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に加え、「Belonging」という要素に注目が集まっています。
「Belonging」は、D&Iを円滑に進める潤滑油のような要素です。ぜひ参考にしてください。
こちらの記事も参考にしてくださいにゃ!