「有能な上司」は文化で異なる?!ダイバーシティマネジメント成功の秘訣とは?

異文化理解-6次元モデル、7つのメンタルイメージなど

これまで、『ホフステードの6次元モデル』と『7つのメンタルイメージ』にて、世界各国の文化や価値観の違いを見てきました。

今回は、ダイバーシティマネジメントに役立つ、メンタルイメージごとの「有能な上司」像をご紹介します

ある国で活躍していたマネージャーが、新しく赴任した国ではチームマネージメントにとても苦労する・・・というのはよくあることです。それは、上司や部下、組織といった存在に対する像や求めているものが違うからなのです。

チームメンバーが無意識に持つメンタルイメージと上司像を知り、それに配慮した言動を取ることで、無用なすれ違いや摩擦を回避できます!

『7つのメンタルイメージ』のおさらい

『ホフステードの6次元モデル』のうち最初の4つの指標を用いて、その傾向が似ている国々をグループ化したものが『7つのメンタルイメージ』です。

グループPDI
権力格差
IDV
個人主義
MAS
男性性
UAI
不確実性回避
主な該当国
Contest:競争アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド
Network:ネットワークスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、オランダ
Well- oiled machine:油のきいた機械オーストリア、ドイツ、チェコ、ハンガリー、スイス(ドイツ語圏)
Pyramid:ピラミッドラテンアメリカ諸国(特にブラジル)、アラブ諸国、イラン、イラク、ギリシャ、ポルトガル、ロシア、タイ、トルコ、韓国、台湾
Solar System:太陽系ベルギー、フランス、北部イタリア、スペイン、スイス(フランス語圏)、ポーランド
Family:家族中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム
Craftman:クラフトマン日本
↗=高い、↘=低い、→=平均的

日本はその特殊性から、7つ目のグループに一国のみで分類されています。(そんなに特殊とは・・びっくりですね)

メンタルイメージごとの「有能な上司」(An effective boss)

それでは、グループそれぞれの「有能な上司像」を具体的に見ていきましょう。

※今回の記事は、『7つのメンタルイメージ』の生みの親、Huib Wursten氏の論文 “Mental images of culture, a perspective to understand misunderstandings in politics, business, religion &…” を参考にまとめました。

Contest:競争 における「有能な上司」とは

キーワード

  • 決断力がある
  • 決めたことを周囲に納得させることができる
  • 理想像は ”Walk On Water”(水の上を歩く=不可能と思われることをやってのける人)
  • 人々に周知し指示するためのデータを入手できる
  • 主導権を握っている

『Contest:競争』は、主にアングロサクソン系の社会です。権力格差と不確実性回避の傾向が低いので、社会的地位や年齢といった権威権力よりも、「リスクを恐れず実行する」「結果を出す」ことが称賛の対象になります。

また、個人主義と男性性が高いので、「勝者であること」「勝つためのマインドセット、スキル、手段を持っていること」も上に立つ者の資質となります。

Network:ネットワーク における「有能な上司」とは

キーワード

  • 調整役、相談に乗る、仲間
  • 協力的、サポート役
  • 根気強く対話する
  • 全員で話し合ったことを最終的にとりまとめる
  • あらゆるステークホルダー(利害関係者)に配慮し、全員を巻き込む

『Network:ネットワーク』は主にスカンジナビア諸国の社会です。

個人主義が強く自治や自立が尊重されますが、権力格差と男性性が低いため、リーダーには相談役やサポートの姿勢が求められ、物事を決定する際には「全員参加」が理想とされます。

前述の『Contest:競争』と比較すると、男性性の違いにより、リーダーの姿勢と物事の決定プロセスが大きく違うことが分かりますね。

Well- oiled machine:油のきいた機械 における「有能な上司」とは

キーワード

  • 実績ある専門家
  • 解決への筋道を与える
  • 「分からない」と言わない
  • 部下の能力や適性を確実なものとする

オーストリアやドイツなど、主にドイツ語圏に見られるグループです。

権力格差が低く不確実性回避の傾向が強いので、社会的地位や年齢よりも、「現実的、実利的な知識がある」「確実にできる力がある」ことが上位者に求められます

『Contest:競争』と似ているのですが、決定的に違うのは不確実性回避の傾向で、Contest社会の「リスクを恐れずチャレンジする」姿勢に対して、Machine社会では「いかにリスクを回避して実現するか(=そのためのシステムや手順を組み立てることができる)」が有能さの証となるのがポイントです。

Pyramid:ピラミッド における「有能な上司」とは

キーワード

  • 離れて見守る、慈愛に満ちた厳格な父親像
  • 明確な指示説明と専門的見地を与える
  • 忠誠の見返りとして保護をする
  • 人々は権威者や専門家の意見を尊重する

『Pyramid:ピラミッド』はラテンアメリカやアラブ諸国などで見られます。

権力格差が大きい集団主義社会のため、強い権力者によるトップダウンマネジメントが基本となります

また、不確実性回避指標が強いので、「正しい答え」を求める傾向があります。

例えば『Network:ネットワーク』のように「相談、サポート」の姿勢ではなく、明確な指示や専門家としての確固たる意見、自信ある態度などが上位者に求められます

Solar System:太陽系 における「有能な上司」とは

キーワード

  • (上位者であると)視覚的に分かりやすい
  • 知的専門家
  • 明確な指示を与える
  • 人々は権威者や専門家の意見を尊重するが、意見に反対もする
  • ‘nobility obliges’(フランス語で「高貴な者の義務」)

『Solar System:太陽系』はヨーロッパ、特にフランス語圏に多く見られます。

権力格差が大きく、外見や言動に「権威者らしさ、高貴さ」が求められ、実行より知性に重点が置かれているのが特徴的です。

権力格差と不確実性回避の強さは『Pyramid:ピラミッド』と似ていますが、個人主義が強いため、人々が上位者に反対意見を述べることもあります。この辺りへの対処が上司としての力量が問われるところです

Family:家族 における「有能な上司」とは

キーワード

  • 慈愛に満ちた厳格な父親像
  • 明確な指示を定期的に与える
  • 忠誠の見返りに保護をする
  • 人々は権威者や専門家の意見を尊重する
  • 最後の最後で即興で切り抜けることも
  • 主導権を握っている

『Family:家族』は主にアジア諸国で見られる社会です。

権力格差が強い集団主義であるため、統率力ある父親的リーダーが求められます。

『Pyramid:ピラミッド』と似ていますが、不確実性回避の傾向が低いため、原理原則よりも柔軟で現実的な判断が受け入れられます。

よって、マネジメントでは臨機応変さや土壇場での変更が求められることもあります。

Craftman:クラフトマン における「有能な上司」とは

Huib Wursten氏の論文では、日本における「An Effective boss」の整理はなされていません。日本のマネジメントシステムに関する記述から、上司像に関するキーワードをまとめました。

キーワード

  • 物事は事前の根回しで決定
  • 全体合意と調和を重んじる、無私の精神
  • トップダウンとボトムアップを使い分ける
  • 日々の業務では「チームの監督者」の役割
  • 目標達成への努力を惜しまず、部下にも求める

権力格差と個人主義が平均的なので、会社や職場の調和を保ちながら物事を進めていく、目標に向けてチームで努力していく、という上司像が浮かびます。

また、男性性と不確実性回避の傾向が極めて高いことから、目標遂行への執着や「働くために生きる」を体現することも求められるでしょう。

ただし、2021年現在の日本では、この傾向は徐々に変化していることが各種調査結果などから読み取れます。

詳しくはこちらの記事の「日本におけるダイバーシティ」を参照ください。

恐らくこの変化は今後ますます進むことでしょう。その時には、6次元モデルも7つのメンタルイメージも書き換えられるかもしれませんね。

まとめ~さらなる学びへ!

今回は、『7つのメンタルイメージ』における「有能な上司像」の違いをご紹介しました。いかがでしたでしょうか。

ダイバーシティについてもっと知りたい方は、こちらも参考にしてください。

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