『7つのメンタルイメージ』とは、オランダの社会学者Huib Wursten氏が提唱した考え方で、同じくオランダの社会人類学者ホフステード博士の『6次元モデル』を元に、世界各国の文化をグループ化したものです。
今回は、『7つのメンタルイメージ』のうち、アングロサクソン系の文化である「Contest:競争」モデルに焦点を当ててみていきます。
アメリカ、イギリスといったアングロサクソン諸国は、長らく世界のビジネスの中心的存在となっています。日本の企業においても、社員、取引先、顧客など、様々なかたちで接点を持つことでしょう。
Contestモデルの特徴を知り、ビジネスや人材マネジメントに役立ててください!
『Contest:競争』モデルとは?
まずは、Contestモデルの基本定義を確認していきましょう。
主な該当国
アメリカ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド
特徴
- PDI(権力格差):低い =「権力格差を受け入れにくい」
- IDV(個人主義):高い =「個人を尊重する」
- MAS(男性性):高い =「成功、結果を重視」
- UAI(不確実性回避):低い =「リスクを取る」
キーワード
勝者総取り、競争、野心的、結果重視、実用主義、リスクを取る、自己責任、イノベーション、人間関係より契約や実利
Contestモデルを理解する3つのポイントとは?
次に、Contestモデルの考え方や価値観を見ていきましょう。文化により「当たり前」が違うと分かることが、スムーズなコミュニケーションへの第一歩です。
1. 組織や仕事に関する前提
中心となる価値観は?
「人々や組織に競争の自由を与えたら、良い結果となる」
日本進出を図る企業が嘆くことの上位に、規制の多さと意思決定の複雑さが挙げられます。競争の自由を阻む要因として、大きなストレスを与えているようです。
ヒエラルキー(階層)に対する考え方は?
”個々の差”に基づくのではなく、組織で仕事をうまく進めるための機能であり、”合意”に基づくもの
日本では「役職や年齢が上」=「人格も能力も優れている」「尊敬されるべき存在」であることを期待する傾向があるため、ギャップが生まれやすいです。組織感を擦り合わせていきましょう。
注意点は?
「誰が誰に権限委譲しているのか」「誰が誰に報告をするのか」をはっきりさせる必要がある
日本では職務分掌が曖昧であったり、”暗黙の了解”が求められたりしますので、摩擦を生みやすい点です。事前に明確に伝えましょう。
2. 適しているマネージメントスタイル
適しているマネジメント方法は?
「MBO」(Manegement by objectives)
MBO(目標管理)とは、経営学者のピーター・ドラッカーが1954年に提唱したマネジメント理論です。
社員一人ひとりが自分の目標を設定し、その達成が評価対象となります。達成に向けて個々が工夫、学習するといった、自主性やモチベーションの向上が期待されます。
「人々や組織に競争の自由を与えたら、良い結果となる」という価値観に合致している管理・評価手法と言えます。
適している評価方法は?
Contestモデルにおいて、評価制度はモチベーションの基礎となります。
事前に、本人と上長で、目標(中期・短期)と業務内容について話し合い、固定します。(一度決めたら変えない!)そして達成に対しては、ボーナスや昇進といった、明確な報酬を与えることが望ましいです。
モチベーションの元は?
”オープンな競争”が基本であるため、モチベーションを高めるためには、周囲または自分自身と競争できる環境が必要です。
3. 適しているコミュニケーション
コミュニケーションの方法は?
直接的なコミュニケーションを好みます。問題があれば当事者同士で解決を図ります。
好まれるキーワード、アプローチとは?
- 成果主義、目標設定、勝者と敗者
- ”やってのける”
- 競争に対する報酬としての賞与制度(勝者への経済的見返り)
- “高ポテンシャル者”への特別なキャリア・パス(優秀者への特別扱い)
考察~”グローバル化する世界での落とし穴”
Huib Wursten氏は著述の中で、”The trap in a globalizing world”(グローバル化する世界での落とし穴)として、以下のように指摘しています。
The management theories that are taught at universities and business schools in the world are mainly stemming from Anglo Saxon scholars. — Imitating American ideas constitute, as it were, a symbol for progress and success. American management ideas are blindly adopted by managers everywhere.
世界中の大学やビジネススクールで教えられる経営学は、アングロサクソン系の学者によるものが主流である。(中略) アメリカ流を真似することが、まるで進歩と成功のシンボルのようになる。世界中のマネージャーが、アメリカ的経営を盲目に採用する。
— The consequences are that people outside the Anglo-Saxon environment partly adjust to the new rituals, but only in part and not completely. It is a common human tendency to act according to what is expected by your environment. However, this does not mean that this is corresponding with people’s own inner motivation and values.
(中略)結果として、アングロサクソン社会以外の人々が、新しいやり方を取り入れるようになるが、完全にではなく、部分的である。また、人の習性として、自分が属する社会で期待されている言動をするようになるが、それが個人の内なるモチベーションや価値観と一致しているとは限らない。
Mental images of culture A perspective to understand misunderstandings In politics, business, religion & … - Huib Wursten (日本語訳はブログ管理人による)
ある文化の元で、人々の考え方や価値観に合った手法が生み出されるわけですが、それは必ずしも他の文化とフィットしているわけではありません。
文脈から切り取って形式だけ採用すると、本質が失われ、何のためのにしているのか分からなくなってしまいます。
例えば先述のMBO(目標管理)は、日本でも多くの企業が取り入れましたが、本来のメリットである自主性やモチベーションの向上から離れて、単なる数値管理に留まるケースも多く見られました。
多様な人材を活かす「ダイバーシティマネジメント」についても、同じことが言えます。
形式的であったり、企業の価値観と一致していない手法を盲目的に取り入れたりすると、成果からどんどん離れてしまいます。
うまくいかない例
- 採用のためのブランディングとしてのみ利用
- 制度と現場がかみ合っていない
- 一部の部署への”丸投げ”になっている
- 「ダイバーシティ」=「外国人採用」のように、偏って受け止める など
そうならないために、必ず、以下のようなことから始めてください。
経営戦略・人事戦略において、「ダイバーシティ」によって何を実現したいのかを明確にする
「ダイバーシティ」で何が実現できうるのかを知りたい方は、こちらを参考にしてください。
また、全体設計の方法や具体的な施策は、企業の実例が参考になると思います。
ご参照ください!
まとめ
今回は、『7つのメンタルモデル』のひとつ、「Contest:競争」モデルの特徴をご紹介しました。いかがでしたでしょうか?
これはあくまで「全体傾向」であり、個人差があることは当然ですが、自分が属する社会の「当たり前」を疑い、多様性に目を向けるきっかけになりましたら幸いです。
メンタルイメージをもっと知りたい方はこちらもどうぞ!
ダイバーシティマネジメントに興味がある方はこちらもどうぞ!
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